研究の目的
 九州大学はかつて石炭産業の中心地であった北部九州に設立され、百年近い歴史の中で、多くの学部や研究所が石炭研究と深いかかわりを持ち、多数の優れた業績をあげてきました。また、21世紀のアジアの発展にとって、開発と資源・環境問題は戦略的課題です。九州大学は、地理的にも歴史的にもアジアとの関わりが深く、これまで、アジアの人々や研究者と様々なレベルでの連携を行ってきました。そこで本プロジェクトでは研究目的を、「わが国の石炭産業の歴史と現状を、社会経済・資源工学・環境技術の視点から総合的に研究し、アジアにおける石炭の合理的な開発と利用、およびわが国とアジア諸国の安定的な石炭産業発展に資する」こととし、この目的を遂行するために、以下の4つに掲げる研究テーマを設定して、総合的検討を行いました。

(1)戦後日本の石炭政策と炭鉱技術の発展     
(2)日本の石炭および石炭生産技術の特徴と国際協力
(3)アジアのエネルギー生産利用における国際協力 
(4)石炭火力発電に焦点をあてた環境問題の考察  


資料J-Coal ホームページ
http://www.jcoal.or.jp/graph/graphjp01.gif より。



資料J-Coal ホームページ
http://www.jcoal.or.jp/graph/graphw09.gifより。


研究メンバー(所属等は、研究当時のものです。)
東定 宣昌教授(石炭研究資料センター)/吾郷 眞一教授(法学部)/荻野 喜弘教授(経済学部・経済学科)/西村 明教授(経済学部・経営学科)/富田 宰臣助教授(理学部・地球惑星科学科)/内野 健一教授(大学院工学研究科地球資源システム工学専攻)/井村 秀文教授(工学部附属環境システム科学研究センター)/宮川 泰夫教授(大学院比較社会文化研究科)/外川 健一助教授(石炭研究資料センター)

(1)戦後日本の石炭政策と炭鉱技術の発展

 荻野喜弘「戦後日本における石炭政策の展開と海外炭の輸入・開発問題」は、戦後日本の石炭政策の史的展開を5段階に区分して、石炭鉱業が基本的に強力な石炭政策の下におかれ、このことが石炭鉱業の自律性を失わせる最大の要因であったことを明らかにしました。
戦後初期の石炭技術政策を考察した、東定宣昌「戦後日本の炭鉱技術と技術導入 −石炭政策と関連して−」は、日本の石炭鉱業が占領下においても、主体性を維持しながら技術導入を図ったことを明らかにしました。
 
(2)日本の石炭および石炭生産技術の特徴と国際協力

 内野健一・富田宰臣「日本の石炭鉱業における保安技術の特徴と国際協力の方 向」では、日本の石炭産業が、複雑な地質条件のもとで、短期間に高度なレベルの生産・保安技術を会得したことに着目しながら、その条件下で起こった事故の変遷とこれに関する諸条件を時期別に分析しました。また、最近の炭鉱の巨大システム化に着目しながら、その安全対策の特質と重要性を指摘しました。


オンビリンIII(インドネシア)
斜坑掘進現場。
工学研究院 井上雅弘助教授提供。

釧路コールマインの採炭現場。
学外研究員 萩原義弘氏提供。


(3)アジアのエネルギー生産利用における国際協力

 宮川泰夫「国際エネルギー構造の変革と石炭産業の存在形態」では、時間的・空間的に壮大な視点から、アジアを中心とするエネルギー構造の変化を考察し、石炭産業の位置付けを行いました。
 西村 明「中国国営企業の欠損構造」では、1993年の市場経済転換後における中国石炭鉱業の多角経営、機械化、合理化の現状を分析し、中国固有の問題点を浮き彫りにしました。
 吾郷眞一「アジア太平洋地域における石炭産業の将来と環境・貿易問題」では、ESCAP (国連アジア太平洋経済社会委員会)の資料を参考に、外交的問題を視野に入れた日本の石炭政策に関する長期的戦略の必要性を提唱しました。

(4)石炭火力発電に焦点をあてた環境問題の考察
 
 外川健一・井村秀文「環境に配慮した石炭利用の現状」では、中国における石炭火力発電による大気汚染問題に焦点をあてて、石炭利用に関する日中環境国際協力の現状と課題を整理しました。


ワンボ炭鉱(オーストラリア)坑口付近
工学研究院 井上雅弘助教授提供。

 なお、研究プロジェクト当時操業されていた国内2炭鉱の現地調査・ヒアリングも行いました。本プロジェクト参加メンバーには、世界の多くの地域の炭鉱を知悉している者もあれば、坑内採炭現場に関しては未経験の者もありましたが、この見学は研究プロジェクトメンバー間の議論に活かされました。















研究プロジェクトメンバーによる
炭鉱見学(池島炭鉱)



研究課題:アジアの石炭問題と日本の石炭産業に関する総合的検討
研究組織:石炭研究資料センター・理学部・工学部・経済学部・比較社会文化研究科・法学部
審査部門:社会科学 採択年度:H9-H10 種目:B 代表者:東定 宣昌(石炭研究資料センター教授)