多細胞生物の細胞は互いに信号を交換しています。
私達の体は多くの細胞(ヒトでは約1013 個)からできています。そして、多くの細胞が協調して働くことで、全体が正常に維持されます。細胞同士が協調できるのは、細胞外からの信号によって細胞の働きを調節する仕組みがそれぞれの細胞で発達しているからです。細胞は互いに信号の交換をしています。
細胞は相手の細胞に接触して信号を伝えたり1、信号となる分子(因子)を細胞外に放出し、その分子(因子)を介して信号を伝えたり2します。
細胞の働きは細胞外からの信号で調節されます。
信号を受け取った細胞は、信号の種類に応じて、分裂して増殖する・特定の性質を持つ細胞に分化する・自殺する、などの反応をします。この中で、細胞の増殖を促進する因子(信号)については多くの研究があります。増殖促進因子の研究は、生体組織から取り出した細胞を培養し解析していく技術とともに発展してきたからです。
私達は脊髄組織から細胞の増殖を抑制する因子を発見し、その作用を検討しました。

生体を構成する組織は定常に保たれています。組織を作る細胞の増殖が正負に調節されているからです。このうち負の調節因子については殆どわかっていません。我々は、ブタ脊髄抽出液中に細胞の増殖を抑制する因子があることを発見しました。この抑制因子は負の調節因子である可能性があります。私達はこの因子の細胞に対する作用を検討しました。

脊髄由来の細胞増殖抑制因子の作用は可逆的・細胞特異的でした。
増殖条件で培養している細胞(1)の培養上清に抑制因子を添加すると、伸展して増殖していた細胞が丸みを帯びた形になり増殖を止めました(2)。その後、因子を取り除くと、細胞は再び増殖を始めました?。つまり、この因子の抑制作用は可逆的なのです。
この因子による増殖抑制の程度は細胞の種類によって異なりました。また、抑制作用は因子濃度に依存しました。
ブタ脊髄由来の細胞増殖抑制因子はアポトーシスも抑えました。

MDCK細胞を非接着条件で増殖抑制因子を添加せずに培養した場合(2)と増殖抑制因子を添加して培養した場合(3)とで、アポトーシスの指標であるカスパーゼの活性化(左)と細胞のDNA断片化(右)を比べました。いずれも、増殖抑制因子により抑えられました。

まとめ
因子の増殖抑制作用が可逆的・細胞特異的であること、因子が足場依存性のアポトーシスを抑制することは、この因子が生理的に細胞増殖を調節することができることを示唆します。

研究課題:脊髄由来の新奇細胞増殖抑制因子の生理作用
研究組織:理学研究院
審査部門:生命科学  採択年度: H14 種目: B-2  代表者: 江本 由美子(理学研究院 生物科学部門)
     e-mail: yemotscb@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp