種目:Aタイプ、研究期間:平成14年度〜平成16年度、
研究代表者: 村江達士(理学研究院)
研究分担者:中牟田義博(総合研究博物館)、関谷実(理学研究院)、中村智樹(理学研究院)山内敬明(理学研究院)、北島富美雄(理学研究院)、岡崎隆司(理学研究院)

分析手法の開発
X線ガンドルフィーカメラによる微小物質の同定
   九州大学総合研究博物館 P&P経費でX線源購入

 微小試料の粉末X線回折パターンは,45度で交差した2軸で試料を回転させることにより偏りのないデータを得ることが出来るガンドルフィーカメラを用いて,高感度のイメージングプレート(IP)上に撮影.写真は回転対陰極型X線発生装置にガンドルフィーカメラをセットしたところと,カメラ内部を示す。

 鉄隕石に含まれる長石の反射顕微鏡写真(上段左),長石中には白い微小結晶が包有されており(上段中央),鉄隕石母天体形成時の履歴を残している.この微小結晶を取り出し,針先につけ(上段右),今回の回折システムを用いて回折パターンを得た(下段).この回折パターンより長石に包有される結晶はトロイライト(FeS)であることがわかり,鉄隕石母天体形成初期において,斜長石組成の溶融体と鉄硫化物の溶融体とが高温で不混和共存していたことが明らかとなった。

X線吸収微細構造(XAFS)スペクトルによる有機硫黄化合物の同定
BL-11B(高エネルギー加速器研究機構のビームライン)を使用
 XAFS分光法は、近年、地球惑星科学への応用が期待されている手法であるが軽元素領域での地球外物質への応用は世界的に始まったばかりである。硫黄K吸収端のXAFSスペクトルにおける有機硫黄の吸収に着目し、これと隕石母天体における変質・変成の進行度との関連を検討した。

 硫黄K吸収端のXAFSスペクトルから以下のことがわかった
CMコンドライトは、無機硫化物、有機態硫黄、硫酸塩の3つの主な吸収を示すが、CV,COコンドライトは有機態硫黄、硫酸塩の吸収を示さず、CMコンドライトとは、はっきり異なったスペクトルを持つ。CMコンドライトでは、有機態硫黄の吸収強度は母天体における変成と相関があり、変成が進んだものでは強度は小さい。

二次イオン質量分析計による微小領域の同位体分析
理学研究院 P&P経費で試料ステージの精密上下移動装置を導入
炭素、窒素、酸素、硫黄、マグネシウムなどの同位体組成、および希土類元素の局所分析を数十マイクロメーターの空間分解能で行うことができる。

Begaa(ベガ)コンドライト隕石の電子顕微鏡写真。
赤丸で囲んだ物質(BLM)の酸素同位体、希土類元素をSIMSを用いて局所分析した。
BLMの酸素同位体(左図)と希土類元素(右図)の分析結果。LLコンドライト隕石全岩(青丸)やコンドルールの多くは、地球物質の分別線(TFL)より上に位置する(17Oに富む)が、BLMはそれらより17Oに乏しい組成を持つ。BLMの斜長石質部分の希土類元素パターンは、BLMが長時間(2時間以上)高温(1400度以上)の状態にさらされたことを示唆する。

太陽系形成理論
惑星は中心星(太陽系では太陽)のまわりを公転する原始惑星系円盤を母体として形成されたと考えられています。原始惑星系円盤の成分は、水素やヘリウムなどのガスがほとんどですが、ミクロンサイズの塵(ちり)も含まれています。

微惑星形成の2説
原始惑星円盤の中の塵が衝突合体をくりかえして形成された。
原始惑星系円盤の中で塵の層が「重力不安定」と呼ばれる過程を経て、一気に集まって微惑星が形成された。


大きいちりのかたまりのまわりのガス流のために小さい塵の破片は吹き飛ばされて付着できないことを明らかにしました。
微惑星は無数の塵が自分自身の重力で一気に集まる「重力不安定」という過程を経て形成された可能性が高いことが分かりました。

塵が原始惑星系円盤の中心面に沈殿するにつれて、中心星の周りを公転する速度に差が生じて、「シア不安定」と呼ばれる現象が起きることが石津と関谷により明らかにされました。これは重力不安定による微惑星形成を妨げます。原始惑星系円盤ガスが散逸するとシア不安定は抑えられることも明らかにしました。

有機化合物の化学進化
太陽系形成プロセスにおける有機化合物の「化学進化」の結果生命が誕生した。

地球形成のプロセスと有機化合物
宇宙には星間分子としての有機化合物が存在し 紫外線・宇宙線の作用を受けている。
宇宙塵の集積時には、彗星中の有機化合物と類似の化合が存在し、紫外線・宇宙線・衝撃波の影響を受けた。
微惑星集積と原始地球形成過程では、炭素質コンドライト中の有機化合物と類似の有機化合物が存在し、紫外線・宇宙線・衝撃波の影響を受けた。
マグマオーシャンの時代には、原始地球の有機化合物と水蒸気雲が存在し、鉱物の存在条件で高温に加熱された。
生命誕生時には、地球表層には二次大気と原始海洋が存在し、生命関連有機化合物が合成され、雷・紫外線・火山が作用した。

化学進化のスタート
太陽系形成時において有機化合物がさらされた状況は通常の有機化学ではよく解明されていない複雑な条件下での反応が主たる反応であった。

例えば、粉体混合物や凍結状態における衝撃波加熱、マグマオーシャンにおける高温条件、原始地球海洋の高温高酸性条件等

衝撃波実験
試料に衝撃を与えるため用いた宇宙科学研究所のプラズマレールガン(上の写真): 1gのポリカーボネートの飛翔体を右側のプラズマ発生装置で10km/sに加速し、左側の真空チャンバーに置かれた試料を入れたカプセルに当てる。
個体用カプセル左からねじ蓋、試料収納部衝撃版、飛翔体 飛翔体とカプセルの衝突面
衝突後のカプセル 液体試料用のカプセル粉体にも使用可能、銅板で内部をシール
グリシンの粉体の試料に衝撃(1200℃以上の瞬間的な加熱に相当)を加えた場合、極端な加熱を受けて炭素化した化合物と全く加熱を受けていない原料のグリシンが混在する。凍結水溶液では、超臨界水溶液における反応と類似している。
左は通常の加熱:
全体が様々なレベルのエネルギー状態に置かれる。
右は衝撃波加熱:
非常に高いエネルギーレベルにさらされる部分と全くエネルギーが到達しない部分がある



固体試料の中の有機物の検索
顕微ラマンスペクトルとイメージング(Allende隕石の場合)
Allende中の炭素質化合物の特徴的な吸収

上:一様なグラファイト化と珪酸塩の分布が一致を示す部分
下:異なったグラファイト化レベルの化合物が混在する部分

顕微ATR/FTIRによるマッピング
左:顕微ATRの原理、右:ATR素子、
ATR素子を用いて28億年前の堆積試料を分析した例。
官能基の分布に差がある。


マグマオーシャンから好熱好酸性菌の誕生まで
地球の歴史にはマグマオーシャンの時代があり地球の全表面が1200℃以上になった。その時隕石によってもたらされた有機化合物はどう変化したか。共存する水や鉱物の種類と量で生成物が変化。








マグマオーシャンの」模擬実験装置

初期の地球の海洋は熱くて酸性であった。現在でも類似の環境に古細菌と呼ばれ生物が生息している。古細菌は遺伝子系統樹で最も原始的な位置に存在するので、生命の起源にヒントを与える。他の生物種との顕著な違いは、細胞膜を形成する膜脂質にあり、タンパク質を除いて再形成した膜の機能に特異性がある。





好熱好酸性菌を採取した別府の地獄

隕石と地球外生命
隕石には母天体がある。隕石に生命活動の痕跡が見つかれば、母天体に生命体が存在するか、又はかって存在したことを証明したことになる。
生命活動の痕跡とは何か? 地上の形態化石や印象化石に相当するものが見つかればよいが細菌のような原始的な生命体は形態が単純で見かけの形による化石としての判定が困難。
細菌が合成する無機鉱物には特徴があるが残留鉱物として確実に議論するのには困難が伴う。
生命の活動に起因する有機化合物の検出が確実な手段と考えられるが、地球上の生命体が生産した化合物による汚染との識別が困難。
過去の生命体の産物は、時間とともに安定な化合物へ変化し、化学進化途上の非生命的な生産物との識別が困難になる。

小惑星試料分析に向けて
小惑星サンプルリターン計画

小惑星探査機「はやぶさ」を搭載したM-Vロケット


組み立て途上の「はやぶさ」
(組み立てはクリーンルームの中で防塵服を着て行われた)


(太陽電池パネルを広げイオンエンジンを稼働させて小惑星向けて航行中)


小惑星表面でサンプリング中の「はやぶさ」
(下に伸ばしたサンプリングホーンの上部から発射される弾丸の衝撃で、
小惑星表面から試料を飛び散らせ、
ホーン内部に飛び込んでくる粉末試料をカプセルに捕獲)


衛星「はやぶさ」から切り離されて地球大気圏に突入する小惑星試料を保持したカプセル
(大気との摩擦でカプセルは赤熱されるが中の試料の温度が上がらないように工夫)
2003年5月内之浦発射
 2004年5月地球をスウィングバイし、地球周回軌道を離れる
  現在()、小惑星「いとかわ」へ向けて順調に飛行中
   2005年夏「いとかわ」へ接近、サンプリング
     2007年6月地球へ帰還、試料の入ったカプセルを地球
      (オーストラリアの砂漠)へ落下させる

注:2005年当時の予定

地球に持ち帰られたサンプルを最初に分析する研究者を決めるコンペティションで日本から6グループが選ばれた。
コンペティションは、米国NASAで準備されたサンプルを用い、前もって申告した自らの得意とする分析手法によって試料を分析し、試料に対する正しい情報を与えたものが選別される方法で行われた。一大学から2グループが選ばれたのは九大だけである。

コンペティションの結果を受けて本P&Pがスタート
九州大学理学研究院と宇宙航空開発研究機構・宇宙科学研究本部との間に2005年度に小惑星試料分析に関する協力の協定書が調印される予定。


小惑星試料の分析手順
宇宙塵や彗星、小惑星から回収される試料はきわめて小さい。したがって、その小さな一粒の試料からできる限り多くの科学的情報を引き出す必要がある。

試料の選別
Organic compounds
Minerals
Raman analysis
SEM observation
ATR/FTIR analysis

GC/MS analysis

    
↓  
SIMS analysis  EPMA analysis
九州大学における小惑星試料の分析環境の整備に向けて平成18年度の概算要求中
TEM observation
研究課題:地球外物質と生命の起源を含めた太陽系形成に関する研究
研究組織:理学研究院・総合研究博物館
審査部門:理工科学  採択年度:H14 種目:A  
代表者: 村江達士 (理学研究院 地球惑星科学部門 教授) 
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