研究代表者:岩本幸英(九州大学大学院医学研究院  教授)
研究分担者:村上輝夫(九州大学大学院工学研究院  教授)
      廣川俊二(九州大学大学院工学研究院  教授)
      古江増隆(九州大学大学院医学研究院  教授)
      下川宏明(九州大学大学院医学研究院 助教授)
      片山佳樹(九州大学大学院工学研究院  教授)
      高木節雄(九州大学大学院工学研究院  教授)
      松田武久(九州大学大学院医学研究院  教授)
      三浦裕正(九州大学病院       助教授)

プロジェクトの目的
 生体は外界からの種々の刺激を受けますが、その刺激に応答しながら、自己修復や自己組織化を通して環境に適応し、構造と機能を発現・維持しています。多くの疾病は生体内における刺激ー応答機構の破綻によりもたらされるものですが、現在、生体内での力学的環境や刺激ー応答機構のメカニズムを体系的に捉える基盤技術は、十分整備されていないのが現状です。この研究プロジェクトでは、生体内での刺激ー応答現象をマクロおよびミクロレベルにおいて包括的、体系的に解明することにより、その基本原理を明らかにし、新たな医療技術を創成することを目的としています。
 教育面に関しては、将来の医用工学を担う人材の育成を目的に、工学系学生に対する講義、実験を実施し、さらに医系キャンパスにおける定期的なセミナーの開催など、医学系学生に対しても教育および異分野の研究者との交流を促進します。

プロジェクトの概要



1.ナノテクノロジーに基づくナノ治療の開発
ナノテクノロジーとは
 「ナノ」とは10億分の1を意味する言葉ですが、最近、新聞やテレビでよく耳にするようになりました。例えば、地球を10億分の1に縮小するとビー玉のサイズになるような超微小な世界です。最近の科学技術の進歩により、このナノレベルでの超微細加工技術が可能になってきています。

九大での「ナノ医療」の開発
 九大では、製薬メーカーおよびベンチャー企業と共同研究チームを組んで、血管透過性の亢進した部位にのみ特異的に集積する性質を持ったナノカプセルを作成し、これに増殖抑制剤を搭載すると、バルーン傷害後の再狭窄病変が薬剤単独の場合の10分の1以下の投与量で著明に抑制されることを認めています。また、細胞表面の特定のリン酸化を認識するナノカプセルや血管のいろいろな特性を感知する機能化造影剤の開発研究も行っています。


ナノ粒子にセンサー機能を付加し、一定の条件下のみで内部の薬剤の放出がおこるような分子設計を行う。




2.感温性ゼラチンによる培養軟骨細胞移植
 外傷などによる関節軟骨の欠損部を修復する方法として、患者さん自身の軟骨細胞を採取し、体外で培養増殖した後に移植する培養軟骨細胞移植という方法が行われています。しかしこの方法の問題点は、培養した組織が欠損部の形状にうまくマッチしないことや、関節を切開しなければならない点にあります。
室温(液状)
37℃(ゲル)
 
私たちは生体高分子を一部分化学修飾することにより体温でゲル化するゼラチンを人工細胞外マトリックスとして培養軟骨細胞と混じることにより、軟骨欠損の形状に適合し、かつ非侵襲性に欠損部へ注入移植することが可能となる方法を開発しました。
培養3週間で95%以上の細胞が生着

液体(室温)からゲル(37℃)への相変化

培養10週間での培養軟骨の外観

3.次世代人工膝関節の開発
 人工膝関節置換術は、変形性膝関節症や関節リウマチなどによって高度に障害された関節表面を、合金と超高分子量ポリエチレンからなるインプラントで置き換えることによって、疼痛を軽減し関節機能の回復をはかる術式です。しかし、現在国内で使用されている人工関節の大部分は米国製であり、日本人の膝関節の解剖学的特徴に適合しないことや、正座などの深屈曲動作が十分考慮されていないなどの問題を有しています。私たちは、日本人の膝関節形態にマッチし、深屈曲に対応しつつ、長持ちする次世代人工膝関節を開発しています。
手術前            手術後

従来型人工膝関節デザイン

次世代人工膝関節の全体像


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