こころの知能指数が感情をコントロールする?
  ―情動性知能における注意機能の解明と能力測定テストの開発―
研究代表者:小松佐穂子 
(大学院人間環境学研究院)

研究の背景

 一般的な頭の良さを表すものとしてIQ(Intelligence Quotient, 知能指数)がありますが,それ以上に将来の社会的地位など人生における成功に関わると考えられているのが,EI(Emotional Intelligence, こころの知能指数,情動性知能)です。
 EIとは,「自分や相手の感情を読み取ったり,理解したり,コントロールしたりする能力」のことで,主に対人コミュニケーション場面や社会生活の中で使われます。
 しかしEIの科学的な研究はそれほど進んでおらず,一体どのようなメカニズムなのか? どのようなテストを使ってEIを測定したらよいのか?など,わかっていないことがたくさんあります。
 EIの測定方法は2種類あります。ひとつは「質問紙テスト」で,例えば"イライラして家族や友達にあたってしまうことがありますか?"という質問に対して,はい,いいえで回答する自己評価です。もうひとつは「能力テスト」で,知能検査のように,自己評価ではなく客観的行動を通して能力を測定する方法です。



研究の目的

 本研究は,実験心理学的手法を用いて,EIのメカニズムおよび測定法を研究することを目的としています。
 EIの中でも「感情をコントロールする」能力に注目し,自己評価に基づく質問紙テストと,心理学の研究でよく使われる選択的注意課題の能力テスト(@表情―単語ストループ課題・Aカラーストループ課題)でEIを測定し,結果について検討しました。



質問紙テスト

 質問紙テストは,すでに作成されたEI質問紙(箱田・小松・中村, 2010)を使用しました。この質問紙により,3つのEIが測定されます。

 

能力テスト@ 表情―単語ストループ課題

 表情は無視して単語の快不快判断(単語の意味がポジティブな意味か,ネガティブな意味か)を行うことで,EIの感情のコントロール力を測定します。コントロール力が高い人は,感情を表している表情を無視する能力が高いため早く判断ができますが,コントロール力が低い人は,表情に引きずられて単語の判断が遅くなると考えられます。

 


【表情―単語ストループ課題のイメージ図】

 

能力テストA カラーストループ課題

 表情を無視して写真の色判断(写真が,赤,青,緑,黄のどれか)を行うことで,EIの感情のコントロール力を測定します。コントロール力が高い人は,表情を無視する能力が高いため早く判断ができますが,低い人は,表情に引きずられて色判断が遅くなると考えられます。



 


【カラーストループ課題のイメージ図】

 

質問紙テストと能力テストの測定結果は一致するのか?

 質問紙,能力テストともに,EI(特に感情のコントロール力)を測定しているので,質問紙と能力テストの測定結果は一致すると予想されます。
 そこで大学生,大学院生76名に質問紙と2つの能力テスト(PC実験プログラムで実施)を受けてもらい,相関分析をしました。分析の結果,相関係数はほぼ0であり,両テストで測定した結果は一致しないことがわかりました。
 この結果は,質問紙で測定されるEIと能力テストで測定されるEIは,別物であることを示しています。同じような結果は,過去のEI研究でも見られています。質問紙ではパーソナリティ(性格特性)の性質をもつEIが,能力テストでは認知的能力の性質をもつEIが,それぞれ測定されると考えられています。
 今後,EIを測定するためには,質問紙と能力テストの2つの方法で測定する必要があると考えられます。本研究の成果は,性質の異なる2つのEIを測定するためのテストを開発したことです。




研究課題:こころの知能指数が感情をコントロールする?
     ―情動性知能における注意機能の解明と能力測定テストの開発
研究組織:人環 審査部門:人社系  採択年度:H23 整理番号:23348 
種  目:D-3タイプ(ポスドク研究奨励賞 f枠) 
代表者 :小松 佐穂子(人間環境学研究院 学術研究員)

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