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ヒトとカイコとウィルスの関係
 カイコガを育てて糸を取る養蚕は、5千年くらい前に中国で始まり、今もいろいろな国で行われています。カイコの繭から絹糸を紡いで絹布を作ります。

卵がふ化して幼虫となり4回脱皮を繰り返す。
5齢幼虫は絹糸を吐き、繭を作ります。
(拡大図はこちら

 日本の伝統的な着物である和服も、高価なものは絹糸で作られています。
 このようにヒトにとって大切なカイコなのですが、病気をおこすウイルスが感染すると死んでしまいます。
 カイコを殺してしまうウイルスは、病原微生物として養蚕を行う農家に恐れられてきました。農家では絹糸がたくさん取れるうえに、病気に強いカイコを長い時間をかけて選んで育ててきました。

絹糸で作った着物 

カイコとウィルスの関係
 いまでは、カイコの体内で増えるウイルスを利用してヒトの役に立つタンパク質を作ることができるようになりました。
 たとえば、ヒトの糖尿病の薬として必要なインシュリンというタンパク質を作りたいときは、ヒトからインシュリン遺伝子をとりだし、ウイルスに組み込みます。この組換えウイルスをカイコに注射すると、カイコの体内でインシュリンがたくさん作られます。
組換えウイルスのつくりかたとタンパク質の生産

この図では、ノーベル賞で有名になったクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子をウイルスに組み込み、カイコに注射しています。

 わたしたちは、絹糸がたくさん取れるうえに、病気に強いカイコを長い時間をかけて選んで育ててきました。なので、いま農家で育てられているカイコは、ウイルスに強いカイコです。このようなカイコは、ウイルスを使ってタンパク質を作らせる昆虫工場には向いていないのかもしれません。
 けれど、九州大学に古くから保存されている特殊なカイコのなかには、昆虫工場に最適な品種(本当は系統といいます)がいるかもしれません。

九州大学保存のカイコ突然変異系統

古いものでは、大正時代から維持されていて、ウイルスに弱い品種もいます。

カイコとウイルスを使って動物の薬を作る
 そこで、九州大学にある450種類の品種にウイルスを注射して、たくさんタンパク質を作るカイコ品種を見つけようとしました。
 それが、d17というカイコ品種(赤く輝いている)で、となりの図にあるように普通の品種(p50)と比べるとたくさんのタンパク質を作ります。この品種は昆虫工場用のカイコ品種として九州大学から特許が申請されています。

タンパク質生産発現量の比較
d17(タンパク質がたくさん取れるカイコ)とp50(ふつうのカイコ)

 このd17という品種を使って、これまで作ることのできなかった、いろいろなタンパク質がたくさん作られるようになってきています。
 いま、昆虫工場で作った家畜やペットの薬が販売されていますが、ちかい将来、わたしたちヒトの薬も作られるようになると思います。

作成: 河口 豐   農学研究院・遺伝育種学講座・蚕学研究室
  日下部 宜宏 農学研究院・遺伝育種学講座・蚕学研究室
   李 在萬   農学研究院・遺伝育種学講座・蚕学研究室

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