現在の船の大半は、鋼を材料として建造されています。鋼の「強さ」といっても、いろいろな尺度がありますが、ここでは、「靱性(じんせい)」について体験することができます。

 「靱性」とは、材料の「ねばりっこさ」のことです。靱性はまわりの温度に大きく影響されます。たとえば、チョコレートを思いうかべてみましょう。温度が高いとき、チョコレートは軟らかくなり、折れる前にかなり曲げることができます。温度が低いときは、チョコレートは硬くなり、簡単に折れてしまいます。つまり、温度が高いときのほうが、ねばりっこいというわけです。鋼にもこれとおなじ性質があります。

靱性の測定方法
 靱性を工業的に測定する方法として、「シャルピー試験」があります。写真のハンマーを用いて試験片をたたくことで「靱性」の目安となる数値を測定できます。


試験片の破断面

船体材料の靱性不足が原因で起きた事故
 第二次世界大戦中に、アメリカで戦時標準船(戦争に必要なものを運ぶ船)が、約5,000隻建造されましたが、約1,000隻に3m以上のき裂が発生し、そのうち、20数隻は船体が真っ二つに折れてしまいました。このような事故は、穏やかな港に停泊中に突然生じた場合もありました。
 原因の調査の結果、船体材料の靱性が、現在と比べてかなり劣っていました。これを契機に船体の安全性が飛躍的に向上しました。
 この事故は、「タコマ橋の崩落」および「コメット飛行機の墜落」とならび、世界三大事故とよばれており、これらの教訓が、安全性確保に大いに貢献しました。まさに、「失敗は成功の元」です。
静かな港で突然破壊した、スケネクタディー号

 有名なタイタニック号の沈没原因の一因にも、材料の靱性が悪かったことが、最近の調査により判明しました。使用されていた材料は、建造当時の標準的なものと比べて不純物が多く混ざっていました。また、当時は靱性を考慮する必要性について理解されていませんでした。

パネル作成者:後藤 浩二(九州大学大学院工学研究院 海洋システム工学部門)

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