過去10万年間の気候変動 〜プランクトン群集を用いた古環境復元〜(3)
Climate changes during the last 100 kyrs deduced from plankton records.

オホーツク海における研究例

オホーツク海は、世界で最も低緯度で海氷の張る海域です。その原因は、オホーツク海が周囲を陸地に囲まれており、アムール川から流入する大量の淡水により表層が低塩分化し冬の冷たい季節風が冷やすためです。またオホーツク海で冷やされた水は北太平洋中層水の形成に大きな影響を持つといわれており、地球規模の熱輸送(地球の温度調節)の点からも重要な役割を果たしています。

オホーツク海の海氷の様子
(網走市役所ホームページより)


上図は、オホーツク海 における全レディオラリア(珪質殻を持つ単細胞動物性プランクトン)化石のAccumulation Rate(AR:堆積速度)を示した図です。ARは、1平方センチメートルあたり千年間に堆積した個体数を表しています。つまりARとは、その当時のレディオラリアの生産量を示しています。上図の白い部分は間氷期、青い部分は氷期、斜線部は氷期の中で比較的温暖な時期を示しています。全体を通じて氷期にレディオラリアの生産性は低く、間氷期に増加する傾向が見られます。この傾向は、おおむね前述のδ18Oのカーブに調和的で、氷期におけるARの減少は、海氷の発達による影響と考えられます。



レディオラリアの1種であるLychnocanoma nipponica sakaii という種は、他のレディオラリアが減少する氷期に増加し、約6万年前を境にして急激に減少しその後絶滅するという特異な変動を示しています(上図)。
 L. nipponica sakaii は、北太平洋亜寒帯においても約5万年前に絶滅したことが報告(Morley and Nigrini,1995)されており、おおよそオホーツク海での絶滅期とほぼ一致しています。従って、これらの海域における本種の層序学的意義(年代の指標)は大きいといえます。 
 また、これらの海域における本種の絶滅期の一致は何を意味しているのでしょうか?オホーツク海と北太平洋とのつながりを解くカギとなる種として注目しています。

パネル作成者: 高橋孝三、岡崎裕典、朝日博史、吉谷洋、松下貴誉加(九州大学理学研究院地球惑星科学部門)

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