1996年初頭から学内で博物館設置の検討が始まり、同年11月に設置準備委員会が発足、1998年に「ユニバーシティ・ミュージアム」設置構想が纏められ、2000年4月、九州大学総合研究博物館が省令に基づく6番目の国立大学博物館として発足しました。2002年1月に博物館相当施設に認定され博物館実習の開講が可能となりました。

  
平常展示
 九大博物館には、まだ専用の展示施設がありませんので、箱崎キャンパスにある50周年記念講堂のロビーの一郭を借りて九大所蔵標本展を行っています。常時公開したいのですが、いろいろな制約があり、年に二回期間限定で公開しています。現在は、貝類標本・炭坑関係資料・人骨・考古学資料・昆虫標本・植物標本を展示しています。
公開展示
 九大の教員が日常行っている研究成果をわかりやすく公開する目的で、学外の施設をお借りして年1回行う展示です。担当は各部局に交替でお願いしています。
 2000年の創設以来、『森・水・人』、『石炭・金・地熱』、『植物をもっと知ろう』、『川と海の生命展』と多彩な内容で、九州大学が展開する学問の広さ・深さを反映しています。2004年は『倭人伝の道と北部九州の古代文化』を行いました。

特別展示
 学内で行う特定のテーマを掘り下げた展示です。『昆虫展』、『地球惑星科学への招待』、『九州大学教育・研究の最前線』(第1回〜3回)と続き、今回の『大学博物館西東』に至りました。
  ○ サテライト展示
 九大博を広く知って頂くために、学外の3ヶ所にサテライト展示を設けています。福岡空港第1ターミナル2階出発ロビーでは「九州の地下資源」、医学部病院棟2階廊下では「植物をもっと知ろう」、前原市伊都文化会館ロビーでは「絶滅の危機に瀕する野生動物たち」、「福岡県で絶滅に瀕している植物たち」を展示中です。
そのほか盛りだくさん
 2003年10月に九州大学・九州芸術工科大学統合記念展示『あれも、これも、芸術工学!?』を行いました。各年度末には、応募があった部局の『公開卒業論文発表会』を記念講堂で行っています。九州大学での日常の教育・研究の成果発表であり、卒業生には晴れ舞台です。



 九州大学には、約750万点に及ぶ膨大な量の標本資料が所蔵されており、全国でも最多級です。九大博物館には専用の収蔵施設がまだありませんので、各部局で分散的に所蔵・管理していますが、将来的にはその大部分が九大博物館に移管される予定です。代表例をご紹介しましょう。
 
昆虫標本 新種発見の際に指定される基準標本5000点など、総計400万点からなる日本最大のコレクションです。ハチ類39万点、ハエ類20万点、ゾウムシ21万点、タマバエ15万点、カメムシ類13万点などがあり、現在も毎年5万点が増え続けているほか、文献資料も充実しています。
植物標本 台湾・ミクロネシア・ニューギニアなどアジア−太平洋地域を中心に集めた標本など、植物研究史上重要な標本を含みます。熱帯植物の金平コレクションが著名です。
動物標本 ネズミ・モグラ・コウモリなど、とくに小型の哺乳類が充実したコレクションで、剥製や液浸標本が1000点以上あります。
岩石・鉱物標本 九州地方を中心に日本全国から採取された標本が、理学研究院・工学研究院を中心に10万点以上あります。東大の若林標本・和田標本と並ぶ20世紀初頭の三大標本とされる高壮吉鉱物標本(約1200点)が有名です。
化石標本 約9万点ありますが、なかでも古生代のフズリナ・サンゴ、中生代・新生代の軟体動物化石は多くの模式標本3000点を含み、質・量ともに国内有数です。

岩石標本 昆虫標本 化石標本
植物標本 小型ほ乳類標本 化石標本

考古学資料 九州を中心として旧石器時代から歴史時代まで、各時代・各地域の研究の基準となる資料が多くあります。学史上名高い中山平次郎博士の収集品、中国・朝鮮・パキスタン・フランスの出土品もあります。
記録史料 石炭産業など産業経済史料をはじめ、外交貿易史料・医学史料・科学史料・文学史料・古地図などの記録史料があり、総数は100万点以上です。三奈木黒田家文書(福岡藩史料・7000点)が代表例です。
古人骨資料 北部九州を中心とする西日本一円からの出土資料で約3000体分あります。縄文時代から江戸時代に及び、中心を占める弥生時代・古墳時代の人骨とそれに基づく研究は、現在の日本人の形質的特徴がどのように形成されたのか考える上で重要な役割を果たしてきました。
技術資料ほか 大正から昭和にかけての採鉱・冶金関係機械類や模型などわが国の貴重な技術資料があります。各部局で教育・研究に用いてきた機器・機械・模型類の中には技術史的価値が高い物が多数あり、情報収集と保存に向けた取り組みを始めています。
寄贈資料 現時点で九大博物館の所蔵品と言えるのは寄贈資料です。貴重な標本で量が適当な場合には寄贈をお受けしています。佐々治コレクション(甲虫類)、宮川コレクション(ゾウムシ上科)、木船コレクション(翼手類寄生虫)、中島コレクション(植物)、福岡県植物研究会コレクション、大分県城南地質同好会標本(イノセラムス)などがあります。

記録史料(唐津石炭採掘の図)
考古学資料 古人骨資料
寄贈資料(佐々治コレクション) 技術資料



○情報化
 博物館ホームページの充実を進めています。なかでも「オンラインミュージアム」では、過去に九大博物館が行ったすべての展覧会の説明パネルを公開しており、ご好評を頂いています。標本・資料の新キャンパスへの移転に備えて、分野ごとにデータベース化推進をお願いし、その経費の援助を行っています。完成したデータベースでのwebサイトでの公開も始めています。

○学芸員養成
 博物館・美術館・資料館等の業務に従事できる有能な人材を養成し、博物館に対する理解を広めることを目的にして、学芸員資格取得に関連する講義・自習を開講しています。博物館創設前には文学部のみで開講されてきましたが、理科系学生向きではありませんでした。そこで博物館創設後に、理科系向きの講義を理学部で開講し、博物館相当施設に認定された2002年度からは、博物館実習も開講しています。

○大学院教育
 博物館の教員が、理学研究院の協力講座に所属したり、大学院教員を兼担する形で大学院生の教育に携わり、軟体動物学・昆虫学・植物学・鉱物学・鉱床学・考古学・古文書学など基礎的研究分野の後継者養成を推進しています。

○研究協力
 九州大学での日常の教育・研究の成果発表への協力のために、2002年度から毎年度末に、応募があった部局の『公開卒業論文発表会』を記念講堂の博物館スペースで行っています。今の所、農学部農学分野だけですが、他の学部・分野への広がりを期待しています。

○社会教育・生涯教育
 今日の大学は地域の社会教育・生涯教育への貢献を求められています。九大博物館もその一翼を担うべく、展覧会以外にもさまざまな行事を実施して、大学における教育・研究の成果をわかりやすい形で社会に提供することに努めています。

過去の行事は……
  2002年2月:公開講演会「考古科学の最前線」
  2004年2月:公開講演会「地球外物質に太陽系の起源を求めて」
  2004年7月:第1回総合研究博物館セミナー「標本歴史学:金平コレクション」
  2004年10月:九大・糸島会 第2回地域資源再開発塾「林冠の昆虫を調べる−体験!昆虫研究者の仕事」

作成者:九州大学総合研究博物館 岩永省三
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