■弥生人のケガ・病気■

 人骨に残るケガや病気は、その人の生活歴を示すと同時に、遺伝的系統やその当時の社会の様子をも知らせてくれる。たとえば、弥生人の骨折は、橈骨遠位端(腕の骨の親指側の骨)が最も多い。この骨折は、主に前に手を突いて倒れたときに生じるもので、じつは現代人でも最も多い骨折の場所である。


 また、島根県古浦遺跡の小児骨は、頭蓋骨が極度に肥厚していて、強い貧血の症状を示している。このような強い骨変化を伴う貧血は、サラセミアという遺伝病の可能性が高いと報告されている。この病気は、アジアでは広東や香港を発生の中心としており、稲作とともに伝わってきた可能性を秘めている。今後、中国・韓国の古人骨との比較のうえで注目される症例の一つであろう。


 土井ヶ浜の弥生人の中には、頚椎癒合・頭蓋底嵌入症・環椎後頭骨癒合症・歯突起形成不全・仙骨形成不全などの先天的な障害をもつ人もいる。この女性は、成人に達しており、幼児とともに合葬されていた。墓の位置や扱い方は、他の人たちと差はない。障害者に対する当時の共同体のケアーを示す例といえよう。


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