相良 建至(大学院理学研究院 物理学部門 教授)


星での核融合

 太陽では水素が燃えている。つまり4個の水素が核融合反応をしてヘリウムになっている。水素が燃え尽きるのに太陽ではあと50億年かかるが、重い星ではもっと早い。
 水素が燃え尽きると今度はヘリウムが燃える。ヘリウム(4He)が燃えると炭素(12C)、酸素(16O)など生物の体に必要な元素が作られる。重い星はその後に超新星爆発を起こし、もっと重い元素、例えば土や岩の主成分であるケイ素(Si)や、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)などが次々と作られる。銀河系では100年に平均2個の星が超新星爆発を起こしている。
 ヘリウムが燃え始める時に起こる 4He+12C →16O+γ の核融合反応の速度が未だに良く知られていない。この反応は、生物に関係ある炭素/酸素の割合を決めるし、星が超新星爆発を起こすか/おとなしく燃え尽きるかも決める。だからこの反応の速度を測ろうと世界中で30年間競争してきた。しかし今も測られていない。この実験は非常に難しい。


九大での実験計画

 九大理学部タンデム実験室ではこの難しい 4He+12C →16O+γ 実験に挑戦している。ヘリウムと炭素の融合速度は極めて遅いので作られる酸素の数が非常に少ない。この少ない酸素をどうやって測定するかが問題である。



まず第1に、酸素の数を出来るだけ増やす。ヘリウムと炭素を多く用意してそれらを衝突させる。
第2に、少ない酸素をなるべく多く一ヶ所に集めて測定する。
第3に、少ない酸素を測定する時に邪魔なバックグランドを減らす。


 我々はタンデム加速器(図1)を使って実験するが、独自の考えで新しい装置や新しい方法を開発してきた。すでに第1と第2の課題をクリアーし、今は第3課題の半分の所にある。山登りで言えば8合目あたりである。第3課題がクリアーできたら約2ヶ月の間昼夜連続で実験をする。それほど大変な実験である。

図1.九州大学タンデム加速器(直径4m,長さ14m)

 

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研究課題:タンデム加速器を用いた天体内熱核反応の研究
研究組織:理学部・工学部・総合理工学研究科
審査部門:理工科学  採択年度:H10-H11  種目:B  代表者:森信 俊平(理学研究院 物理学部門 教授)