害虫と天敵の個体群動態
- その奥に共進化を見る -


 農作物を食べる害虫、その害虫を食べる天敵。両者は、被食者-捕食者関係にあります。また、物質循環を含めて農生態系を構成しています。個体間の相互作用は、集団全体の振舞い(個体群動態)をどのように決定するのでしょうか?また、個体の性質は、世代を越えて変化(進化)するのでしょうか?進化は集団の振舞いにどのような影響を及ぼすのでしょうか?これらの問いに答えるには、2つの科学的な方法が可能です。
 1つは、生態系全体の振舞いを調べる方法です。様々な生物要因と物理要因、さらには気象要因が複雑に絡み合って引き起こされる個体群動態を、個々の要因まで解きほぐします(→パネル2枚目)。
 もう1つは、すでに性質のわかっている生物を人為的に寄せ集めて、生態系を構築する方法です。環境をあらかじめ設定した実験室に、生物や物質の出入りがない閉鎖系を作って、あらかじめ数理モデルのシミュレーションで予測した振舞いを示すかを詳細に検証できます(→本パネルおよびパネル3枚目)。


害虫の進化と寄生バチとの個体群動態の進化的変化 (Tuda and Iwasa 1998, Tuda 1998)

 上から:コマユバチの1種 Heterospilus prosopidis の雌、雄、アズキゾウムシ Callosobruchus chinensis の雌、雄。この寄生バチは、貯蔵中のマメを加害するマメゾウムシの幼虫に、豆の外から産卵管を挿入し産卵します。日本では世界に先駆け、これらの昆虫を材料にした競争系や捕食系の個体群生態学が発展してきました。




マメゾウムシの幼虫の豆内分布


軟X線による豆の透過映像:マメゾウムシの幼虫が作った坑道(楕円形の穴)の輪郭が見える。その中にいるのが幼虫か蛹。

スクランブル型(競争を避ける「共存型」)

コンテスト型(競争して1頭が勝つ「勝ち抜き型」)


 


マメゾウムシの20世代目に当たる400日頃に幼虫の競争様式がスクランブル型からコンテスト型へ移行していました。
 寄生バチの性質が変化しなくても、マメゾウムシ集団にこうした競争型の変化が起きると、グラフのように個体群動態が安定化し、平均個体数が2種で逆転することが、進化モデルによって確かめられました。

 コンテスト型の頻度が増えたのは、実験に使った豆粒が小さかったためコンテスト型がスクランブル型に遭遇する確率が高くなり、競争では勝ち目のないスクランブル型を排除したからでした。さらに、寄生バチがいるとマメゾウムシの密度が低くなり2つの競争型の遭遇率が低くなるため、コンテスト型への進化が遅くなります。





 これは、進化が集団の振舞いを変えることを実証した数少ない研究のひとつです。また、ボトムアップ効果(植物に起因する効果、植物をめぐる競争など)の方が、トップダウン効果(捕食者に起因する効果)より、植食者(マメゾウムシ)に大きく影響していると言えます。


ポスター担当

津田 みどり (Midori TUDA)(農学研究院 天敵昆虫学分野・助手)


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