クワガタムシ科における性的二型と幼虫食性の進化


性的二型の進化


 信頼性の高い系統樹が得られたことで、性的二型など、クワガタムシ科に見られる様々な特徴の進化の過程を探ることが可能になりました。その例としてまず、クワガタムシ科の象徴である性的二型の進化について見てみましょう。

 図4の系統樹によれば,日本産のクワガタムシでは少なくとも3回、独立に雄の大アゴの発達が進化したことになります(系統樹中の赤色で示した群)。一方、チビクワガタやツノヒョウタンクワガタなどでは性的二型が二次的に退化したことが伺えます(青色で示した群)。こうした性的二型の進化は成虫の繁殖行動や生活形態と密接に関連して進化したものと考えられます。



幼虫食性の進化


 クワガタムシの幼虫は主に朽ち木を食べて成長します。朽ち木はキノコやカビの働きによって木材が腐って変化したものです。朽ち木の腐り方の特徴は作用するキノコやカビの種類によって大きく異なりますが、大きく「白色腐朽(いわゆる白腐れ)」、褐色腐朽(赤腐れ)」、「軟腐朽(泥腐れ)」の3つののタイプにわけることができます。クワガタムシの幼虫にはこうした特定の腐り方に対する好みが見られます(図5)。



図5 いろいろな幼虫の食性。
A:褐色腐朽材を食べるツヤハダクワガタの幼虫。
B:白色腐朽材を食べるルリクワガタの幼虫。
C:シロアリと関係の深いネブトクワガタの幼虫。
D:家族生活 (亜社会性)を営むチビクワガタ



 得られた系統樹からクワガタムシの幼虫の食性の進化について見てみると、クワガタムシ科の祖先はどうやら褐色腐朽材喰いであったらしいこと、大型化し、大アゴも発達するグループは白色腐朽材食性の中から現れたらしいこと、白色腐朽材食性のグループの一部がシロアリとの関係を持ったり、家族生活を営むようになったりした可能性が高いこと、などが推定されます(図6)。



図6 日本産クワガタムシ科の幼虫食性の進化

ポスター担当

荒谷 邦雄 (Kunio ARAYA)(比較社会文化研究院 生物多様性分野・助教授)


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