酸素を一ヶ所に集めて測定する

 軽いヘリウム標的に重い炭素ビームが衝突するので、出来た酸素は炭素ビーム方向に集中して(±2゜以内に)飛び出てくる。その酸素を全て集め、炭素と分離して測定する装置が図5の反跳質量分離器である。最も効率の良い測定方法である。電場と磁場を組合せて酸素を分離し集束するが、バックグランドが発生しにくい九大独自の工夫を凝らしている。



酸素測定に邪魔なバックグランドを減らす

 測定したい酸素の数とビームとしてやってくる炭素の数との比は約10-18(1兆分の1の百万分の1)である。反跳質量分離器で原理的には炭素は全て除去できるが、実際にはビームハローが真空ダクトの壁に当たったり、真空中の残留ガスにビームが当たったりして微量の、しかし無視できないバックグランドが発生する。
 そこで時間的に連続なタンデムビームをパルス化した。パルスビームの来ない時間に測定したものはバックグランドである(図6)。この方法でバックグランドを2桁減らした。

 


ゴールは近い

 現在、バックグランドは炭素の数のおおよそ10-14である。予算不足で電磁石を小さく作ったので真空ダクトの内壁にビームハローが当たっているようである。今後ビームの角度拡がり小さくし、ハローを切り取れば改善できる。バックグランドをあと1桁減少すればエネルギーの高い領域で測定を始める。その時期は近い。その後は実験をしながらバックグランドを4桁減らす。ゼロから出発し独自アイデアを積み重ねてここまで来た経緯を思えば、ゴールは近い。
 最大の競争相手はドイツグループである。彼らには九大の約2倍のキャリアがあるが、九大は標的とパルスビームで優位に立っている。数年内に 4He+12C →16O+γ のデータが双方から発表され、30年来の問題が解決するであろう。
 更にこの低バックグランド技術は、九大タンデムで進めている加速器質量分析にも応用され資料の年代測定に役立つ。九州には年代測定や環境測定したい資料が多く、この方面でも成果が期待される。


研究課題:タンデム加速器を用いた天体内熱核反応の研究
研究組織:理学部・工学部・総合理工学研究科
審査部門:理工科学  採択年度:H10-H11  種目:B  代表者:森信 俊平(理学研究院 物理学部門 教授)